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平成30年度 学位授与式 学長告辞

2019年3月29日更新

平成30年度 学位授与式 学長告辞

本日、学位記を授与される皆さま、おめでとうございます。晴れてこの日を迎えられた皆さまに、お茶の水女子大学の教職員を代表して心よりお祝い申し上げます。 ご家族やご関係の皆さまにも、謹んでお祝いを申し上げます。これまで長きにわたって、学業に打ち込むお嬢さまたちを、物心共に支え続けて下さいましたこと、まことに有難うございました。
 また、ご来賓の皆さまには、お忙しくていらっしゃる中、ご臨席を賜りまして、感謝申し上げます。皆さまに、本日の学位記授与式を共にお祝い頂けますこと、心から御礼申し上げます。

本日学位記を授与されますのは、博士前期課程240名、博士後期課程31名、論文博士7名、合計278名の方々です。そのうち、39名の方々が、中華人民共和国、大韓民国、台湾、ベトナム社会主義共和国、タイ王国、シンガポール共和国、モンゴル王国、アフガニスタン?イスラム共和国、エジプト?アラブ共和国の9カ国から、本学を留学先として選んで来日され、研究生活を送って来られました。皆さまがご参集くださっているこの徽音堂に、日本の国旗と共に、留学生の方々のお国の国旗も掲げてありますが、毎年、国境を越えて、様々な国からお茶の水女子大学大学院に留学生をお迎えすること、そして、本学における特色ある学びと研究生活を経験した皆さまを社会に送り出すことが出来ることは、私たち教職員にとって大きな喜びです。 
また、多忙を極める公務の中で、数年間に亘って研究を続けられたウガンダ共和国大使のベティ?グレース?アケチーオクロさんに、本日、論文博士号を差し上げられることは、とても嬉しいことです。 

さて、皆さまの研究生活は如何でしたか? 大学院生になる前に描いていた夢を実現することができたでしょうか? 良き師や友人を得て、研究成果を挙げることが出来た方、新たな領域へとチャレンジする機会を持つことが出来た方もいらっしゃるでしょうし、その一方で、研究が行き詰って、悩んだり挫折を味わったりして、辛い経験をされた方もいらっしゃるでしょう。でも、若い頃の成功体験も、また失敗体験も、全てが皆さまの人としての成長を促し、将来を開拓していく力を作ることにつながるのです。
今、学位を取得する節目を迎えて、これまで歩んできた道を振り返ってみましょう。そして、自分自身の成長を確認し、自信を持って頂きたいと思います。そして、皆さまが研究に励むことができる環境を整え、物心共に支えて下さったご家族やご関係の方々に、是非、感謝の言葉を伝えて下さい。 

ところで、本日学位を授与される皆さまの多くは、平成の時代に生まれ、平成の時代に育ってきた方々ですね。1989年1月に昭和天皇が崩御され、「平成」の時代が幕を開けました。それからほぼ30年を経て、今年4月30日に今上天皇が退位されることとなり、平成の時代が終わろうとしています。では、「平成」とは、どんな時代だったのでしょうか? 

世界では、平成の幕開けの年11月に、昭和の時代の世界的な負の遺産であったベルリンの壁が崩壊しました。そして翌12月には、米国のブッシュ大統領 とソビエト連邦のゴルバチョフ書記長が、マルタ会談において「米ソ冷戦」の終結を宣言し、平和な世界の到来が期待されました。しかし、その後も、世界各地で頻発する内乱や、2001年9月11日に起こったアメリカ同時多発テロをはじめとする世界の混乱によって、多くの人々が紛争に巻き込まれ、人種、宗教、文化、政治的立場の違いによって、迫害されたり生命の安全を脅かされたりしているのです。 

日本では、昭和の末期から続いたバブルが崩壊して、景気が低迷し、失業者や貧困層の増加を招くこととなりました。また、少子化と超高齢化も進んで、社会的弱者も年々増加しています。30年の間には、オウム真理教によって引き起こされた悲惨な事件もあり、また、1995年1月17日の阪神淡路大震災、2011年3月11日の東日本大震災をはじめとする未曽有の災害が日本を襲い、多くの被害を出しました。
特に、東日本を襲ったマグニチュード9.0という巨大地震は、太平洋沿岸を中心にすさまじい津波を誘発して、多くの人々の命や財産を奪いました。さらに、地震と津波によって引き起こされた東京電力?福島第一原子力発電所の事故によって、多くの人々がふるさとを離れることを余儀なくされ、震災後8年を経た今も、未だ復興が進んでいないのが現状です。 

国の内外の多くの人々が悲しみや不幸に見舞われている状況がある中で、皆さまには、日々の普通の暮らしが穏やかに続くこと、人々が信頼し合い手を取り合って暮らせることの大切さを、心に刻んで頂きたいと願います。
そして、大きな社会的な不幸の中で、自分に何ができるかを真剣に考え、これからも弱い立場にある人々への温かい視線を忘れずに、日本と世界の人々の幸せのために、自分たちに何ができるかを問い続けながら、それぞれの道を誇り高く歩んで頂きたいと願っています。 

悲しいことも多かった平成の時代でしたが、その中で、日本が他国との争いに巻き込まれたり、他国の人々の命や財産を奪ったりすることがなかったことは、とても幸せなことだったと思います。平和を希求し、人々の安寧と幸せを守ろうとする日本人の姿勢について、私たちは誇りを持って、これからもずっと、未来に向けて維持していくべきものと考えています。
こうして、現在の社会を顧みますと、今、私たちの社会がかつてないほどの激しい変化の中にあることが分かります。人工知能(AI)技術やビッグデータ活用などの技術の急速な発展は、こうした変化を加速する要因にもなっています。世界中の情報をリアルタイムで入手できる中で、その情報の選別に苦慮したり、変化の速さの中で立ちすくみ、自信を失ってしまったりすることもあるでしょう。この激しい変化の中で私達はこれからどう生きていくべきでしょうか。それが今、まさに問われていると言えましょう。
本日、お茶の水女子大学大学院を巣立っていく皆さまは、2年間あるいは5年間の研究生活の中で、様々な力を身につけて来られたはずです。混沌とした社会を、自分自身の力を試すチャンスととらえ、持てる力を十分に発揮していくことが出来る方々だと思っています。 

ご存知のように、本学は1875年の創立以来、優れた研究者、教育者等を国の内外の多様な分野に輩出してきました。女性が学術研究に従事することさえ難しい時代から、本学の卒業生は国の内外で活躍してきたのです。わが国の女性科学者として、様々な困難に遭遇しながらも、海外に留学し研鑽を重ねて、初の女性理学博士となった保井コノさんや、女性で初の帝国大学生となった黒田チカさん、また、第2次世界大戦前後の極めて困難な時期にフランスに渡り、ジョリオ=キュリー夫妻の許で国際的に活躍した湯浅年子さん、女性を受け入れなかった帝国大学で無給の副手として研究を続け、初の女性農学博士となった辻村みちよさんなどを先駆けとして、現在までに、多くの科学者?研究者が育ち、国の内外で活躍しています。
また、豊富な海外留学の経験を経てシャム国の教育に尽力し、その後東京女子大学の2代目学長を務めた安井てつさんや、アメリカ留学の経験を活かして女性の権利向上を広く訴えると共に、日中教育文化交流に尽力し、さらに桜美林学園の創設発展に貢献した小泉郁子さんも、本学の卒業生です。
 現在も、文系?理系を通じて、様々な領域で活躍している女性たちの出身大学や出身大学院を見てみますと、本学出身者がとても多いことに驚かされます。先輩たちの活躍は、後に続く皆さまにとっての目標ともなり、また、力強い後押しとなることでしょう。
お茶の水女子大学では、今お話した大先輩たちのうち、5名の方のお名前を冠した「お茶の水女子大学賞」を創設し、それぞれの分野で頑張っている本学出身の研究者の方々を顕彰しています。本年度は、保井コノ賞を、産業技術総合研究所主任研究員の沓掛磨也子さんと、理化学研究所放射光科学研究センター研究員の南後恵理子さんに、湯浅年子賞を、パリ大学南校線形加速器研究所CNRS主任研究員の洪江美さんに、黒田チカ賞を、東京医科歯科大学統合研究機構研究基盤クラスター生命倫理研究センター助教の甲畑宏子さんと、愛知学院大学薬学部薬化学講座講師の松村実生さんに、小泉賞は武蔵大学社会学部教授の中西祐子さんに、そして辻村みちよ賞は本学名誉教授の牧野カツコさんにそれぞれ差し上げました。受賞された方々は、いずれも意欲溢れる素敵な研究者です。本日学位を取得された皆さまにも、近い将来、これらの賞を受賞して頂きたいと願っています。 

なお、本学は、小さな大学ですが、留学生の受け入れや、海外留学の推進にとても力を入れています。そして、学内にもグローバルな環境を作って、多様な人種、国籍、文化、宗教等の背景を持つ若者たちが、互いに理解し合い、力を合わせて目標を達成することを後押ししています。皆さまの中にも、海外で研鑽を積んだ方が、多数いらっしゃいますね。
正門横に、東京オリンピック2020に向けて建設中の国立競技場の設計者でいらっしゃる隈研吾さん設計のとても素敵な建物が来週竣工を迎えます。国際交流留学生プラザ、愛称としてHisao & Hiroko TAKI PLAZAと名付けられたこの施設の建設は、本学の学長特別顧問でいらっしゃる「ぐるなび」創業者の滝久雄さまご夫妻からの多額のご寄附によって実現の運びとなりました。また、数多くの卒業生や教職員、ご関係の皆さまからのご寄附によって、同窓会コモンズを併設することが出来ました。本学に集う人々の長い間の夢であった国際交流、世代間交流、地域交流の場としての、素晴らしい施設が今春、オープンします。
皆さまの卒業までには間に合いませんでしたが、是非、卒業後に、プラザを訪ねてください。様々なお集まりが出来るような、いろいろな部屋を用意してありますし、少ない部屋数ではありますが、宿泊施設も作りましたので、末永く利用していただきたいと思っています。
大学の同窓会である「桜蔭会」の事務室や会議室なども、プラザに併設されて居り、同窓会の先輩たちは、卒業生の様々なネットワークを通じて、若い方々の活躍を支援して下さっています。是非、同窓会のお仲間として、同窓会コモンズを活用して頂きたいと思います。 

本日皆さまが手にされた学位は、広く豊かな教養と、深く高度な専門的知識の修得の証であると同時に、将来に向けて、人類社会の安定と発展に貢献していくための基盤を作って来たことの証でもあります。さらには、これまで積み重ねた知の資産を、これから皆様が飛び立とうとしている社会のために、活用することの責任を負う立場に立ったということも意味しています。
これから皆さまは、それぞれの道を歩み始めることになりますね。そして、様々な領域で、これまで培って来られた専門的な力を思う存分活かしつつ、優れた専門家としての人生を創って行かれることでしょう。これまで本学で学位を取得された方々がそうであったように、皆様がその活躍を通じて、周囲からの信頼を集め、後に続く女性たちのために道を拓いて下さることを期待しています。 

今後、研究の道に進んでさらにその専門分野を究めていかれるにしても、学んだ専門知識を社会の現場で活かして行かれるにしても、社会の様々な課題の解決に資するために、それぞれの専門を一層深め、様々な知識や方法を身に付けるために学び続けて頂きたいと思います。
 ただ、それと同時に、狭い専門の中だけでの学びでは、自分自身の知識や想像力に限界があることに気付いて頂きたいと思います。そして、その限界を超えるために、一生を通じて、学び続けて頂きたいとも思っています。
多様な社会的課題が顕在化し、複雑化している現在では、ひとつの専門分野を越えて、複数の多様な専門分野間の協働が必要なことが明らかです。多様な分野との協働によって、新しい知識や方法を学ぶことが出来ますが、それ以上に、異なる視点からのものの見方や考え方、新たな価値観や想像力の獲得につながります。その過程で、皆さまの可能性は、さらに大きく広がることでしょう。
 できるだけ多様な人々と、特に異なる分野の人々と、意識的に交流することを心がけて下さい。また、社会に出てから、大学での学び直しの機会を利用して頂くこともお勧めしたいと思います。
 専門的な研究や仕事に邁進しつつ、異なる学びの機会を作っていくことは、容易ではないかも知れません。でも、専門以外の分野についても多様な学びの機会を持ち続けることは、専門の力をさらに鍛え、強化することになり、皆さまの人生をさらに豊かなものとしてくれるはずです。
 お茶の水女子大学では、継続した学びのために、種々の教育改革を検討し実施しています。社会人の大学での学び直しを支援するために、学び直しや新たな分野への挑戦を可能にする制度や、分野横断的に学べるようなカリキュラムを強化し、また、キャリアアップを目指す女性達のための「ビジネスリーダー養成塾」も開講しています。今後さらに、そのような仕組みの更なる整備を目指しています。
長い人生には、様々な思いがけないことが起こります。困難な場面に遭遇したり、壁に突き当たったりして、物事が思うように進まないことが少なからずあると思います。チャレンジして失敗することは恥ずかしいことではありません。失敗が皆さんを強くし、想像力を育てます。是非、失敗しても諦めることなく、歩み続けて頂きたいと思っています。諦めずに歩み続けることが、自分自身を成長させ、将来を拓くことにも繋がりますし、困難を乗り越えたときには、自分自身への誇りが生まれると思います。
人生の谷に差し掛かった時に、諦めたり逃げたくなったりすることもあるでしょう。うまく行かない時は、低空飛行を続けながら、起死回生の時を待ちましょう。長い間、低空飛行を続けることもあるかも知れませんが、諦めて着陸してしまわずに、飛び続けて頂きたいと思います。飛び続けてさえいれば、必ずまた高く飛べるときが来るはずです。そして、困難に出会って悩んだ経験や、失敗を乗り越えた経験は、周囲の人々への思いやりや共感にも繋がります。
ただ、困ったときには、一人で悩まずに、周りの人たちに助けを求めて下さい。皆さまが周囲の人たちを思いやるのと同様に、皆さまを思いやり、助けて下さる方は必ずいらっしゃるはずです。

そして、いつでも、皆さまの母校であるお茶の水女子大学に、羽を休めに帰っていらして下さい。悩みを抱えている時だけでなく、嬉しい時、悲しい時、学びなおしたい時---、是非、母校を訪ね、様々な近況も知らせて下さい。どんな時にも、そしていつまでも、お茶の水女子大学は皆さまを喜んでお迎えします。
私たちが、皆さまを誇りに思っていると同様に、皆さまにも、本学で学位を取得されたことへの誇りを持って、胸を張って歩んで頂きたいと思っています。皆さまが、深い専門性と豊かな教養を併せ持って、絶えず自らを磨きながら、これからの日本を、そして世界を、力強くリードして行って下さることを期待しています。 

皆さまに輝かしい未来が待っていることをお祈りして、お祝いの言葉を結びます。
本日は、まことにおめでとうございます。 

2019年3月22日
お茶の水女子大学長
室伏 きみ子