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サンゴがおとなになるための遺伝子発現制御を解明 幼生から成体への発生「不可逆点」に関わる遺伝子群を同定

2022年1月27日更新

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東北大学大学院生命科学研究科
宮城教育大学大学院教育学研究科
お茶の水女子大学基幹研究院

発表のポイント

  • 造礁サンゴでは、初期発生における変態過程で、前の発生段階に戻れなくなる「不可逆点」がある。
  • 本研究では、発生初期段階にあるサンゴの幼生を用いて、この不可逆点の前後で、細胞表面のセンサータンパク質に関する遺伝子発現の変動パターンが大きく異なることを明らかにした。
  • 不可逆点後には細胞内の不要となったタンパク質が分解され、発生段階が「戻れない」状態になることが示唆された。
  • 本研究により、サンゴの重要なライフイベントに関わる遺伝子群が同定され、サンゴの生息場所決定機構の全容解明への糸口を掴むことができた。

概要

 サンゴ礁をつくる造礁サンゴの多くは岩などに固着して一生を終えますが、幼生は親個体から離れて遊泳することで、生息場所を広げます。幼生はその後、成体(おとな)へ変態して固着するので、変態は生息場所を決める上でも重要なライフイベントと言えます。これまでこの変態過程について、ある時点より発生段階が進むとそれ以前の段階に戻れなくなる「不可逆点」があることは示されていましたが、それに関わる遺伝子制御については不明でした。今回、宮城教育大学大学院教育学研究科の石井悠研究員、東北大学大学院生命科学研究科(兼お茶の水女子大学基幹研究院)の丸山真一朗助教らのグループは、サンゴの初期発生段階における変態の「不可逆点」に関わる遺伝子制御機構を明らかにしました。本研究は、サンゴが幼生から成体に変化する過程での転換点に関わる細胞内での変化を初めて遺伝子レベルで明らかにした重要な報告です。本研究によって、サンゴの生息場所決定機構の全容解明に貢献することが期待されます。本研究結果は、1月25日のZoological Letters誌(電子版)に掲載されました。

詳細な説明

 サンゴ礁をつくる造礁サンゴのなかまは固着生活を営むため、基本的に自ら移動することはありません。受精卵は発生段階が進むとプラヌラ幼生(注1)と呼ばれる遊泳性の幼生として過ごした後、最終的に成体として固着生活を営む場所を決定します。一旦固着すると、たとえ環境が悪くなっても移動できないため、生息場所の決定は生涯にわたり影響を及ぼす重要なライフイベントと言えます。
 造礁サンゴのなかまでは、親の体内で精子と卵が受精し、幼生が放出される「幼生保育型」と、親個体から精子と未受精卵が放出され、海表面付近で受精し、発生段階が進んでいく「放卵放精型」の、大きく分けて二つの繁殖様式が知られていますが、いずれの場合でも、遊泳生活を営む幼生の段階で周囲の環境を探索し、条件のあった場所で幼生から成体への変態が起こることで、群体を形成するような成体(おとな)のサンゴへと成長すると考えられています。幼生から成体への変態は、様々な変化が順序立って起こる複雑な発生プロセスです。特に初期段階には変態の「不可逆点」と言われるタイミングがある(その時点までは発生が進行しても前の段階に戻ることができるものの、それを過ぎると戻ることができない)ことが以前の研究で示唆されていましたが、詳しい仕組みは分かっていませんでした。
 本研究では、主要な造礁サンゴとして知られ、モデルサンゴ種として古くから研究されてきたウスエダミドリイシ(Acropora tenuis)に着目しました(図1)。過去の研究で、ヒドラから同定された神経ペプチドの一種が複数のサンゴ種においても変態を誘導する活性を持つことが示されていたため、これを利用して、発生初期段階にあるサンゴの幼生を用いて変態を誘導し、経時的にサンプリングすることで、変態初期段階の細かな時間差での遺伝子発現の変動パターンを明らかにすることができました。

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図1.(左)産卵直前のウスエダミドリイシ(Acropora tenuis)の様子(撮影:石井宏憲)。(右)ウスエダミドリイシのプラヌラ幼生の様子(撮影:服田昌之)。

 この結果から、変態開始後4時間ほどに訪れる不可逆点前後で起こる様々な遺伝子発現パターンの変化が特定されました(図2)。その一つとして、ウスエダミドリイシはGタンパク質共役型受容体(GPCR)と呼ばれる細胞表面のセンサータンパク質をコードする遺伝子を多く持ちますが、不可逆点前後では、異なる遺伝子群の発現調節が起こり、GPCR遺伝子ファミリーのレパートリーが大きく変化することが分かりました。また、プロテアソーム(注2)など蛋白質分解に関連する遺伝子も不可逆点後に大きな発現変動が起こることから、不可逆点後には、それ以前に必要だったタンパク質が分解されていくことで、不可逆点前の発生段階に「戻れない」状態になる可能性が示唆されました。

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図2.不可逆点前後での遺伝子発現パターンの変化。特徴的な発現変動パターンを示す遺伝子を抽出したところ、不可逆点後にタンパク質分解に関わる遺伝子群の発現が大きく変動することが示された。

 本研究により、サンゴの重要なライフイベントである変態の不可逆的な進行に関わる遺伝子群が同定されました。これらの遺伝子は、サンゴが生息場所を決定するのに働く重要な候補因子と言えます。本研究では変態誘導ペプチドを用いたモデル実験系により解析を行ないましたが、自然界ではもっと複雑なシグナル伝達が起こっていることも十分考えられます。今後こうした遺伝子の詳細な機能解析や、分子レベルから生態系レベルまで幅広い影響を調べていくことで、サンゴの生息場所決定機構の全容解明へとつながることが期待されます。
 本研究は、科学研究費助成事業JSPS KAKENHI Grant Numbers JP20J01658, JP19K06786の支援を受けて行われました。

用語説明

(注1)プラヌラ幼生:刺胞動物(サンゴ、イソギンチャク、クラゲなど)に共通する幼生(成体になる前の発生段階)の名前。
(注2)不要なタンパク質を分解する複合型の酵素の一種。真核生物の細胞内では、必要とされなくなったタンパク質や、正常な構造が保てなかったり合成に成功しなかったタンパク質は、ユビキチンと呼ばれる小さなタンパク質が付加される。プロテアソーム複合体は、このユビキチン化を目印として認識して、不要なタンパク質を取り込み分解する。この仕組みの発見者らは2004年にノーベル賞化学賞を受賞した。

論文題目

題目:Gene expression alterations from reversible to irreversible stages during coral metamorphosis
著者:Yuu Ishii, Masayuki Hatta, Ryusaku Deguchi, Masakado Kawata, Shinichiro Maruyama
筆頭著者情報:石井悠(宮城教育大学大学院教育学研究科、東北大学大学院生命科学研究科)
雑誌:Zoological Letters
Volume Page: 8, Article number: 4 (2022)
DOI: 10.1186/s40851-022-00187-1

【問い合わせ先】

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
助教 丸山 真一朗 (まるやま しんいちろう)
電話番号: 022-795-6689
Eメール: maruyama[at]tohoku.ac.jp

(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当 高橋 さやか (たかはし さやか)
電話番号: 022-217-6193
Eメール: lifsci-pr[at] grp.tohoku.ac.jp

※上記の[at]は@に置き換えてください。